漬物職人ピコ阪翔太

by k.TAMAYAN

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不動産屋が漬物職人を経てポエムコアを始める物語。

lyrics

ピコ阪翔太は思い悩んでいた。
今度会社で発表するプレゼンの資料が一向に出来上がらない。
締め切りまではあと三日。どうするべきか。

ピコ阪は比較的優秀なサラリーマンだった。
本来ならこの程度の仕事は二日もあれば余裕でこなせるはずだ。
だが、今回の仕事は今までとは一線を画す難易度だった。

今回彼がプレゼンをしなければならないのは、新しい茄子の漬物についてだ。
だが、彼の会社は本来不動産を扱うところだ。
なぜ急に茄子の漬物のプレゼンをしなければならないのか、ピコ阪にはわからなかった。

大体、漬物について彼は完全に門外漢なのだ。

それでも、この「茄子の漬物プロジェクト」をなんとしても成功させねばならない。
彼は書斎に引きこもり、必死で考えていた。

プレゼン当日、彼は徹夜で何とか資料をでっちあげた。
そもそも、周りの社員だって漬物に関しては門外漢のはずだ。
彼は半ばやけくそになっていた。

「茄子の漬物において、最も大切なのは漬物石です」

彼は吹っ切れたようにプレゼンを始める。

「今回、新たな試みとして、漬物石にはサファイヤを使用します」

会議室にどよめきがおこる。

「サファイヤのスピリチュアル的パワーによって、茄子の美味しさがより引き立つと考えました」

ピコ阪は、自信満々にそう語った。
どうせ誰も漬物に関しては詳しくないだろう。
そういう算段だった。

騒然となる中、彼は迷わず続ける。

「私の調べたところによると、サファイヤを漬物石に使用した場合、漬物の美味しさが三割ほど増すという結果が出ています」

そこまで言い切ると、どこからともなく拍手が巻き起こった。
彼の作戦はひとまず成功を収めたようだ。

次の日から、彼は漬物担当として正式に採用された。

それから数日後。彼は公園のベンチでタバコを吹かしていた。
その時、見知らぬ中年男性が声をかけてきた。

「あなたが、漬物担当のピコ阪さんですか?」
「はい。どちらさまでしょうか」
「私、日本漬物協会の狭山と申します。ピコ阪さんの評判はかねがね伺っております」

その男の話はこうだった。
なんでも、ピコ阪にかつて誰も見たことのない漬物を作って欲しいという。

ピコ阪は迷ったが、その仕事を引き受けることにした。

日本漬物協会は、つくばシティの外れにあるボロアパートの一室にあった。
ピコ阪は怪しいと思いつつ、足の踏み場のないリビングにあがった。

「さっそくですが、本題に入りましょう」

狭山はコーヒーを差し出しながら、プロジェクトの概要を語った。

「今回、漬物にしていただきたいのは、ただの食べ物ではありません。いや、食べ物ですらありません」

ピコ阪は内心「何を言っているんだ」と思ったが、黙って話を聞くことにした。

「ピコ阪さんには、自転車の漬物を作っていただきたいのです」
「自転車?」
「そう、自転車です」

確かに、自転車の漬物など誰も見たことがない。
コンセプト的には、何も間違っていないと言える。

「自転車を漬物にして、どうするんですか?」
「食べるんです。食べ物ではありませんが、漬物にして我々が食べます」

ピコ阪は、ここで考えることをやめた。

翌日から、彼は自転車の漬物を作り始めた。
予算がたっぷりあるので漬物石はダイヤモンドの原石を使用することにした。
時価にして数百億はくだらないだろう。

試行錯誤の末、一ヶ月後に自転車の漬物は出来上がった。
さっそく、試食会が行われる。

狭山は、アルミで出来たフレームをうまそうに頬張った。

「さすがピコ阪さん。上出来です」

ピコ阪も漬物を食べるように勧められたが、流石にそれは断った。
アルミを噛み砕く狭山の歯は、みるみるボロボロになっていく。

ピコ阪は恐ろしくなり、早々と試食会から離脱した。

試食会から帰宅したピコ阪は、書斎に引きこもって思い悩んでいた。

「俺は本当にあの漬物を作るべきだったのだろうか。あの狭山という男は、何がしたかったのだろうか。でも、彼が満足してくれたならそれで良いんじゃないか」

だが、それでも何か釈然としないものが彼の頭の中に残った。

翌日、彼は普通に茄子の漬物を作ってみることにした。
漬物石も普通のものだ。
そうして出来上がった漬物は、普通に美味しかった。
結局、漬物は普通に作るのが一番なのだ。

ピコ阪は、己の愚かさを恥じた。
たかが漬物、されど漬物。

こうして彼は、漬物職人の道を歩むことになったのである。

それから三年、ピコ阪は数人の弟子を抱えるほどの漬物職人になっていた。
評判は上々。連日常連客から注文が入る。
そんなある日、彼は弟子たちを集めて飲み会を開くことにした。
近所の居酒屋で三千円の飲み放題コースを注文する。
初めはぎこちなかった弟子たちも、ビールを飲み始めると和気藹々と話し始めた。

そして、程よくアルコールがまわった頃、一番弟子の新沢がこんな事を口にした。

「ピコ阪さんのことは、漬物職人としては尊敬していますよ。でも、あんた怖いんだよ。話しかけにくいし、正直一緒に飲んでいて楽しいと思いません」

予想外に手厳しい言葉を浴びせられ、ピコ阪は困惑した。

「俺は、そんなにとっつきにくい人間なのか……」

翌日、ピコ阪は満面の笑みを浮かべて出社することにした。
これで「怖い人」というイメージは払拭できるだろう。

そう思って自分の店に入ると、予想外の展開が待ち受けていた。
ピコ阪の引きつった笑顔で、弟子たちはすっかり怯えきってしまったのだ。

「取り返しの付かないことをしてしまった……」

ピコ阪はあまりのショックで、店をたたんだ。
惜しまれながらの閉店だった。

そして、無職になったピコ阪は新たな事業に手を出した。

「ポエムコア」

それが、彼の出した答えだった。
ポエムコアとは、路上でオリジナルのポエムを朗読する、二〇〇九年辺りから流行りだしたパフォーマンスのスタイルだ。

彼のポエムコアは瞬く間に評判を呼び、ピコ阪は一躍時の人となった。
だが、毎日路上でポエムを朗読するのは楽な仕事ではない。
得られる賃金も、人気の割には僅かなものだ。

そんな時、一人の少女が彼の前に現れる。
彼女は大手ポエムコアプロダクションの社長を務めていた。

「ピコ阪さん、ぜひあなたのポエムコアをうちの会社からリリースしませんか」

彼女は開口一番そう告げた。
だが、ピコ阪はその誘いを断った。

「お気持ちは嬉しいのですが、僕はあくまで路上でポエムコアをやりたいのです。レコーディングする気はありません」

少女は残念がったが、ピコ阪はあくまで自身の信念を貫いた。

ピコ阪は、今でも路上で一人ポエムを読んでいる。
最近は、足を止める人も少なくなってきた。
生活は苦しくなる一方。

それでも、これが彼の選んだ道だったのだ。
ピコ阪の挑戦は、まだ続く。

credits

released November 30, 2016
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about

k.TAMAYAN Ishikawa Prefecture, Japan

アーティスト「k.TAMAYAN」について。
【略歴】
1992年石川県金沢市で生まれる。
2005年ごろから独学で音楽制作を開始。
2009年よりニコニコ動画を中心に「k.TAMAYAN」名義で活動を開始。
動画視聴者から「手書きノートP」の異名を与えられ、自身も愛用。
同年9月、小松市立高校の文化祭にてギターによる弾き語りで初のライブ出演を果たす。
以降、高校・大学のイベントで弾き語りによるライブ出演を続けている。
2012年にはオリジナルバンド「終末時計」を結成し、筑波大学内を中心にライブ活動を始める。
2014年5月には終末時計名義で「第30回つくば芸術祭 野外ステージ」に出演した。
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