美しき精神と日々

by k.TAMAYAN

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セミドキュメンタリー・ポエムコア

lyrics

かつて彼女というものが僕にもいたことがある。
高校時代の話だ。
彼女は出席番号が僕の次だったので、入学当初に隣の席になり、自然と話すようになった。
いや、「自然と」というよりは、僕が一目惚れして話しかけたと言ったほうが正しい。

彼女は特に美人というわけではないが、整った顔をしていた。
声はいわゆる「アニメ声」で、太ってさえいなければ2.5次元の存在と言った感じだ。

彼女のことを仮にNと呼んでおく。

Nとの恋人関係はそう長くは続かなかった。
一番仲が良かったのは付き合う直前までで、それから関係は悪化の一途を辿った。

理由は単純。僕らはお互いにメンヘラだったのだ。

Nは中学時代から精神科に通っていてリストカットやらオーバードーズやら、やることは一通りやっていたと聞く。
僕は僕で、医者にこそ行っていなかったが躁鬱病を患っていた。

別れを切り出されたのはNの誕生日だったと記憶している。

その時点で関係はかなりギクシャクしていたが、僕はなけなしの小遣いでプレゼントを買い、手渡そうとした。
彼女はその受取を拒否し、あらかじめ決めていたような口ぶりで別れ話を始めた。
僕は別れることには賛同したが、プレゼントだけは受け取ってくれるように頼んだ。

それ以来、恋愛とは縁のない生活を送っている。

そもそも、異性と仲良くするということは僕にとってそれなりに高いハードルだ。
大抵女子というのは群れをなして行動していたりするから、そこに割って入るのはどうにも気が重い。
仮に一人でいたとしても、話しかけるのはなんだかナンパじみている気がしていけない。
まして、何の用事もなくメールやらLINEやらをするのは失礼なような気がしてくる。

おまけに、僕自身が人から話しかけられにくいオーラを出しているようなので、異性と話す機会は限られてくる。

普通、こういう前置きをしたからにはここから前置きをひっくり返すような話が始まるのだが、僕の場合そういうこともない。
淡々と、異性と縁のない生活が今でも続いているだけだ。

僕は今、歌を作ることを仕事にしようとしている。
自分で歌うこともあれば、ボーカロイドを使うこともある。
いずれは誰かに自分の歌を歌ってもらうことも考えている。
詳細は伏せるが、今確実にスタート地点には立っている。

創作活動というのは総じて体力を必要とする。
体力は精神力以上に重要だ。
ところが、今その体力が底をつきかけている。

異変を感じたのは2~3週間前からだ。

カップ麺とかコンビニ弁当とかインスタントな食事の、特に炭水化物を体が受け付けなくなった。
コンビニで売っているおにぎり一つが食べきれない。
口に入れた瞬間もどしそうになる。

そういうわけで、一人暮らしに限界を感じて実家に帰ることにした。

実家に帰る日、地元へ向かう高速バスに乗るため東京駅に向かう。
駅についたのは高速バスが出る1時間前だ。
僕はこの1時間を適当に散歩をして潰すことにした。

イヤホンをかけ、音楽を小さめの音量で聴きながら歩く。
「音楽性の違いにより解散しました。」というボーカロイドを使ったユニットの曲が流れる。

夜の東京。
腕を組む若い男女。
疲れきったサラリーマン。
死んだ目のホームレス。
電子音とアコースティックギターの音が耳に流れ込む。

ふいに、走り去る車のライトがにじんで見え始めた。
音楽と、目の前の光景があまりにも美しくシンクロしている。

僕は一旦音楽を止め、公園でタバコをくわえる。

「すいません」

警官らしき人物が声をかけてくる。何を言われるかは見当がつく。

「ここ、禁煙なんです。よろしくお願いします」

僕は即座に火のつきかかったタバコを携帯灰皿に入れ、警官に謝った。
最近はどこに行っても禁煙だ。何も書いてない場所でも禁煙なのだから困ったものだ。

僕はまた、さっきの音楽を聴きながら夜の東京を歩く。

再び、音楽と風景がシンクロする。
その美しさは、僕の心を震わせるのに十分すぎた。

「ねえ、ケンタくん」

僕の前に、黄色い雪だるまのようなキャラクターが現れる。

「突然現れてこう言うのもなんだけど、しばらく実家で休みなよ。君は今あまりにも弱ってる」
「ありがとう、もにゃもん。こんな形で会えるとはね」
「ああ、君はおいらを知っているんだね。なら、なおさらおいらの忠告の意味はわかるだろう?」

僕は静かに頷く。零れ落ちそうになる涙を拭う。
もにゃもんは微かな笑みを浮かべて闇の中へ消えていく。

気がつくと、バスの発車時間が迫っていた。
Nはどうしているだろうか。きっとメールはもう受信拒否にでもされているのだろう。

僕は、どうせ返事の来ないであろうメールを打とうとして、止める。
夜はまだ、始まったばかりだ。

credits


gt:k.TAMAYAN
special thanks:音楽性の違いにより解散しました。/BOOL

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about

k.TAMAYAN Ishikawa Prefecture, Japan

アーティスト「k.TAMAYAN」について。
【略歴】
1992年石川県金沢市で生まれる。
2005年ごろから独学で音楽制作を開始。
2009年よりニコニコ動画を中心に「k.TAMAYAN」名義で活動を開始。
動画視聴者から「手書きノートP」の異名を与えられ、自身も愛用。
同年9月、小松市立高校の文化祭にてギターによる弾き語りで初のライブ出演を果たす。
以降、高校・大学のイベントで弾き語りによるライブ出演を続けている。
2012年にはオリジナルバンド「終末時計」を結成し、筑波大学内を中心にライブ活動を始める。
2014年5月には終末時計名義で「第30回つくば芸術祭 野外ステージ」に出演した。
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